ポーラ研究員が語る透肌フローラの力

大島 宏 研究員

Hiroshi Oshima

ポーラ研究員が語る透肌フローラの力

皮膚常在菌
「透肌フローラ」が多い人は、
肌状態がよい※1、という事実。

この研究結果にたどりつくまでの道のりと、
「肌と菌の関係」について語ります。

※1 メラニン量、目立つ毛穴、頬のシワなどが少ない肌のこと

INDEX

1.独自研究から見いだした、皮膚常在菌「透肌フローラ」の力

皮膚常在菌とは?

私たちは生まれた瞬間から死ぬまで、多様な菌と共生しています。中でも、皮膚の上に定着する菌を「皮膚常在菌」と呼びます。皮膚常在菌は主に、肌をすこやかに保つ「善玉菌」、肌トラブルの原因となる「悪玉菌」、菌のバランスによって良くも悪くもはたらく「日和見菌」の3種に分類されます。
美しくすこやかな肌を保つには、肌そのものの機能が正常であることに加えて、これらの皮膚常在菌がバランスよくはたらくことが重要です。

「透肌フローラ」とは?

近年、腸内フローラの研究が盛んとなり、人と共存する菌の生体への重要性が明らかになりつつあります。私たちは、「肌状態も菌の影響を受ける」という仮説をたてて、研究を進めてきました。

今回、研究の中で、30代日本人女性293名の頬から菌を採取し、検出された全菌種の量と肌の種々の機器測定値との関係について大規模解析を行いました。解析した結果、全部で約1,000種類以上の菌が検出されました。約1000種以上の各々の菌の量と肌の測定値との関係性を調べるのは本当に、地道で気の遠くなるような調査でしたね。
しかし、その膨大な解析の結果、良い肌状態と関連する菌が実に数百種も見つかりました。なかでも今回お話しする「透肌フローラ」、学名では「Staphylococcus.hominis (S.hominis)」という皮膚常在菌は、肌の形態(目立つ毛穴の数)、色味、肌の機能(バリア機能)などが良い人に多く存在することを発見しました。

透肌フローラ※(S.hominis)の顕微鏡像

「美肌菌」と
「透肌フローラ」のちがい

「美しい肌に多い皮膚常在菌」と聞いて、美容に詳しい方は「美肌菌」を連想するかもしれません。美肌菌とは、主に「Staphylococcus epidermidis」のことを指していると思われます。「善玉菌」に分類される表皮ブドウ球菌の一種です。研究報告も多く、この美肌菌には角層水分量や肌のバリア機能を高める作用があることが知られています。
一方、今回私たちが着目した「透肌フローラ(S.hominis)」も、 この美肌菌と同じ表皮ブドウ球菌の一種です。しかし研究をはじめた当時、この菌は肌での研究報告は少なく、肌との関連性や肌状態が良い人に多いのかも全くわかっていませんでした。

さらに、先ほどの30代293名の頬部に検出された菌種の量を解析した結果、99.7%の人の肌から「透肌フローラ」が検出されたのです。
美肌菌と同じ仲間でほぼ全ての人の肌に存在するのに、まだほとんど知られていない皮膚常在菌。詳しく調べたらおもしろいのでは・・・?と思い、「透肌フローラ」についての研究をスタートしました。

透肌フローラ※(S.hominis)の保有率 透肌フローラ※(S.hominis)の保有率
ポーラ研究員が語る透肌フローラの力

2.実証実験の成果

透肌フローラと肌との関係

研究をスタートするうえで、まず難しかったのが、「透肌フローラが多いと肌状態が良くなるのか」「肌状態が良いと透肌フローラが多いのか」、その原因なのか、結果なのかを明らかにすることです。
そこで、被検者を集めて1カ月間にわたり、頬部に「透肌フローラ」の入った化粧水を直接肌に塗ってもらい、塗らなかった場所と比較して、肌状態の変化を調査しました。

透肌フローラのマルチな美肌作用

その結果は驚きべきものでした。
1カ月間、「透肌フローラ」を塗り続けると、肌のメラニン量が減ったのです。
メラニンは、肌の「色」に関わり、多すぎるとシミやくすみの原因になります。
この結果を見たとき、透肌フローラは美白肌を目指すのに重要な菌なのではないかと、とても驚きました。

透肌フローラ※(S.hominis)を肌に塗布すると、メラニン量が減少した 透肌フローラ※(S.hominis)を肌に塗布すると、メラニン量が減少した

透肌フローラの美肌作用はこれだけではありません。透肌フローラを塗り続けた肌は、「目立つ毛穴の数」や「頬のシワ本数」なども減少したのです。
このような結果から、「透肌フローラが多いと肌状態が良くなる※1という、原因である可能性が高いと考えました。

※1 メラニン量、目立つ毛穴、頬のシワなどが少ない肌のこと

透肌フローラ※(S.hominis)を肌に塗布すると、目立つ毛穴の数が減少した 透肌フローラ※(S.hominis)を肌に塗布すると、目立つ毛穴の数が減少した 透肌フローラ※(S.hominis)を肌に塗布すると、シワ本数が減少した 透肌フローラ※(S.hominis)を肌に塗布すると、シワ本数が減少した

つまり、透肌フローラはマルチな美肌作用をもつ皮膚常在菌であることが明らかになったのです。

透肌フローラの多い肌を育むには

透肌フローラが、マルチな美肌作用をもつ皮膚常在菌であることを突き止めることができました。
では、どうしたら透肌フローラの多い肌に導くことができるのか?これは皆さん、気になるポイントだと思います。

まだ、詳しくはわかっていないのが現状ですが、私の考えを述べたいと思います。まず、透肌フローラにとって居心地のよい肌状態を保つことが大切だと考えています。「透肌フローラが多いと、肌状態はよくなる」のですが、一般的に状態の良い肌は菌にとって居心地がよく、増えやすい環境といわれています。肌状態が良いと、アクネ菌などの「良くも悪くも」はたらく日和見菌も悪さをしませんし、悪玉菌の増殖を抑えることもできます。そのためには、ごしごし肌をこすったり、洗いすぎたりしないこと。保湿をしっかり行い、菌が生育する角層環境をすこやかに保つことが大切だと考えています。

透肌フローラ以外にも、私たちは過去に、肌状態の良い人の菌を調べた結果、肌状態の良い人は、ある特定の環境にいる菌を多く持つことを学会発表しております。肌状態が良い肌には、屋外環境の菌、特に、農場や植物の周りによく見られる菌が多く存在していたのです。さらに、本試験に参加した女性の生活を調査したところ、「自宅や職場に植物を置いている人」「花屋を訪れる習慣がある人」は、肌に良い菌を保有していることがわかっています。身近に花や観葉植物を置くことも、美肌づくりに効果的だと考えています。

ポーラ研究員が語る透肌フローラの力

3.研究への思い

足かけ7年の研究

最初に透肌フローラに着目してから今日までに、足かけ7年かかりました。
研究を進めていく中でたくさんの困難にも行き当たり、何度も心が折れそうになりましたが、自分が納得いくまで調べつくす、というのが自分のポリシーでもあります。
研究では妥協したくないんです。

あと、私は好奇心のかたまりなんです。
「気づき」とは、偶然降りてくるようなものではないと思っていて、トライ&エラーを重ねてたくさん努力して、努力した人にのみ、神様がふと、ごほうびとしてセレンディピティを与えてくれる、それが「結果や、成果につながっている」と思うんです。好奇心と多くの努力をもっていろいろなことに取り組まないと、そういう気づきというのは絶対に生まれないと信じています。

ポーラ研究員 大島 宏

ポーラ研究員 大島 宏

菌は第4の肌

私は、皮膚常在菌は「第4の肌」だと思っているんです。真皮・表皮・角層の上の肌表面にいつもいるものだから、第4の肌といえるんじゃないかな、と。皮膚常在菌がゼロという人はいなくて、私たちがこの世に生まれ落ちた瞬間からずっといっしょに生きているわけですからね。

「透肌フローラ」 は、これまでどこの化粧品メーカーも注目してこなかった皮膚常在菌ですが、そもそも「菌の力を借りて美肌をつくる」ということが面白いですよね。
まるで、知らない間に小人がせっせと肌を整えてくれるような。
菌がいないと、我々人間は生きてすらいけないのですから。
菌って、本当にすごいですよね。

大島 宏 研究員

大島 宏 研究員Hiroshi Oshima

ポーラ化成工業株式会社 主任研究員
東邦大学医学部 客員講師
博士(医学)